A.山歩き/2.山紀行/・・函南原生林

函南原生林

--山の神、樹齢700年のブナの巨木に会いに、紅葉の美しい森を巡る--


ブナの巨木


函南原生林('02-11-19歩く)
自宅を8時半ころ車ででかける。丁度通勤ラッシュと重なって西湘バイパスまで行くのが一苦労である。 この日は厚木小田原道路が工事中で西湘バイパスの出口は割合すいていた。湯本付近はまだ紅葉は 早いようであったが箱根新道を登るにしたがって紅葉した木が多くなる。天気がいまいちで鮮やかさが ない。
箱根峠を左折し、伊豆スカイライン方面に入って行く。周りの山は緑の熊ささで覆われ、坊主刈り の頭のように滑らかある。そこに黒い潅木が点在している。それは伊豆スカイライン稜線の独特の風景 である。こんな坊主山の近くに函南原生林のような緑豊かな広葉樹の森があるとは想像できない。7,8 分走ると右に富士箱根ランドの看板と分岐が突然でてくる。前もってスピードを落としていないと対向車 もあることだし入るのに戸惑うところである。
下る左手の谷を挟んだ斜面が函南原生林である。車を止めて広葉樹の連なりの紅葉を上から写真を取る。 右正面には愛鷹山が長い裾野を広げている。さらに下ると富士箱根ランドの正面玄関のあるの建物が見えて くる。その建物の30m位い手前右手に駐車場がある。それに入って道なりに左に行くと建物の北側に沿っ くだって行くようになる。あとは道なりにカヤトや小笹の斜面を下って行く。
そうすると建物は余りない別荘地に着き、すぐ左折すると駐車広場である。周りのカヤトはすっかりススキ の穂で覆われ、日差しにかがやいている。

いつものことで、デシカメと銀塩カメラを取り出して出発する。 すぐ入口の門柱がある。そこから急坂を下りながら森の中に入って行く。 しばら下って行くと樹間から紅葉やベージュ色のすべすべしたヒメシャラの木が見え隠れする。 紅葉の色づき具合はどうなのか、また、春は来たことがあるが、秋の紅葉の時期はよいところなのか気がかり であった。このぶんなら結構期待できそうだと一安心する。
入口から15分くらいするとアカガシの巨木が目の前に現れる。樹齢500 年とある。太い縄を幹の表面に縦に貼りつけたようなゴツゴツした年輪を感じさせる樹肌である。 アオキの実であろうか薄ぐらい巨木の傍に赤く彩を添えている。写真を写した後、少し下ると分岐点となる 。ここは周回コースの左右の分岐点である。どちらから行ってもいいが、いつも右から廻っている。
ヒメシャラの木の目立つ階段の道を下って行くと、涸れ沢の河原に出る。 ここは本当にこの時期はいいところであった。空高く立つ木々、真赤に紅葉したもの、黄色に黄葉したもの、 冬枯れで美しい繊細な枝を空にシルエットを作っているもの、ベージュのすべすべしたすっと立っているヒメシャラ、 丸い鳥かごのようなヤドリギ、冬枯れの木を青々と装っているツタなど、本当に多彩であった。ここでは デジカメのほかに銀塩でも写す。空を見上げてずいぶんと写した。青空と雲と透けるような紅葉、見ているだけで スーと吸い込まれそうな気持ちである。誰もいない、一人占めの静かな時間であった。
これより緩やかに森の中を登って行くと観察広場に出る。疎林の見通しのよい広場である。 地面にはびっしりと紅葉が敷きつめられている。葉っぱはすでに灰褐色に変わっているのが 惜しい。疎林の間から見えるヒメシュラのすべすべした木肌や豊かな広葉樹の黄葉が美しい。上を見上げると 空いっぱいに紅葉が広がっている。しばらくこの広場で写真を写す。
また森のなかへ入っていく。するとすぐ分岐となる。林道中尾線への分岐であるが見送って左の方に緩やかに 登ってゆく。そうするとまた道標の立つ分岐となる。ここは原生の森への分岐である。これも見送って ゆくと、階段のあるブナの巨木までの急登となる。途中大木の倒木が道をふさいでいるが 下をくぐって抜けて15分ほど登って行くと大ブナの標識が見え、左に入ってブナの巨木に着く。
階段状の舞台の観覧席のような桟敷の先に懐かしいブナの巨木がどっしりと立っている。 木肌は何本もの太い縄で縦に縁取ったようなすご味のある年輪を感じさせるものである。樹齢は実に 700年とのことである。700年前とはどの頃であろうか。年表を調べてみた。1333年鎌倉幕府滅亡とある。 気の遠くなるような時間である。人間の世界にはいろいろあったが、ジッと箱根の風景を見つづけてきたん だ。すごいなぁ、とつくづくと感じる。
デジカメ、銀塩でいろいろな角度から写す。しかし、 見た感じを表現しきれない。全体を写すと、そのどっしりした感じが出ない。部分を写すと全体の スケールの大きさが表せない。たかが60 年しか生きていない者が樹齢700年ものブナの巨木を写すなど到底無理なような気がした。 誰もいない静かな空間、ゆっくり時間が流れている異空間、ブナをみているとなにか大きいものに包まれた ようでゆったりとた気持ちとなってくる。写真を写せなくてもそれで充分である。階段に座ってブナを眺 めながら昼食とする。
その後去りがたい気持ちを抑えて出発する。少し登ると右 手にやはりアカガシの巨木が現れる。周りの木に覆われて全体が見えにくいが黒々とした太い幹が左斜めか げん伸びている。これも樹齢700年とある。周りの木が邪魔して全体が見えないのが惜しい。写真を写して 先に行く。
少し登るとようやく平坦となり今度はヒメシャラなどの混じる雑木林を下って行く。 小さな沢を渡って登り返すと道標が立っている県道分岐となる。県道とは箱根峠から伊豆スカイラインへ の道である。県道の函南原生林入口に車を止めて、ここまで下ってきて周回することも出来る。 駐車スペースは2,3台分のようである。
この分岐のすぐ先に鉄塔が立っている。鉄塔を過ぎるとまだ葉をつけた高いブナの木が多くられる。 そして急な階段を下ると大きな沢に出る。そこからまた登り返して下ると次の沢にでる。この沢付近から モミジが多くなる。少し登ると山道に2本ほどブナの大木がそそり立っている。丁度逆光でモミジも透け て光り、ブナの黒い幹と枝もまぶしくはっきり見えない。しかし、顔がブナの影になると、日がさえぎられ、 そこにモミジとブナの幻想的な光景が見えてくる。ブナの幹に沿ってモミジが 赤く染まり、それから外れた部分は白く透けて見える。まるでブナがモミジをまとっているような神々しい 姿がある。美しい光景である。ここで何枚写真を写しただろうか。とうとうデジカメは電池切れで役に立たなくなった。 それでようやく踏ん切りが付いて先にゆくことにした。ここからほんの少し登ると左右コースの分岐に ついた。
あとは左にアカガシの巨木を見て、きつい階段を登って行くと開けて函南原生林入口についく。 そこから左廻りで別荘の横を通って車のところに戻った。足元をみると、もう時期は過ぎているがノコンギ クの群生がベージユのモノトーンの草むらの中で清楚な美しい姿を見せていた。また遠くをみるとススキの穂波が 西日に銀色に輝き一本の木が立っている美しい景色があった。また、遥か下の沼津のあたりの駿河湾の 海面はスポトライトのような日差しが雲より差しこみキラキラと輝いていた。

(コースタイム)
駐車スペース(P)10:35--函南原生林入口10:40--アカガシの巨木10:54-- 一分岐10:57--河原11:03〜17--広場11:23〜42--林道中尾線分岐11:44-- --原生の森分岐11:48--倒木11:53--ブナの巨木12:04〜37--アカガシの巨木12:41--県道分岐(鉄塔)12:55 --沢の河原13:16--沢の河原13:31--ブナの大木と紅葉13:35〜55--分岐13:57--函南原生林入口14:05

  • 函南原生林案内板

  • ( 追 記 )
  • 車で行くときは静岡県函南町の富士箱根ランドを目指して行くとよいです。
  • コースには道標が整備されていますので迷うことはありません。
  • 富士箱根ランド側入口の駐車スペースは充分あります。
  • 函南原生林のシンボルだった巨体ブナはずいぶん前に倒れ、今はないです。(2019-01-10記)

    [山紀行]