A.山歩き/2.山紀行/・・垂天池沼

垂天池沼
(たてちぬま)
ブナ林に囲まれ神秘的にたたずむ静寂の沼



垂天池沼('02-8-10歩く)
この垂天池沼から約30km離れたところに私の実家がある。久しぶりに八月に実家に戻ったので、 何か写真でも写そうと思う。しかし、春は角館の枝垂桜、刺巻の水芭蕉、西木村のカタクリなどなど被写体 に事欠かないが、夏は見当たらない。そこで本屋に行って「秋田のハイキング」という本を買って読んでみた。 意外にも直ぐ近くに垂天池沼があることが分かった。長年近くに住んでいたのに知らなかった。このぶんだと よほど未開発の静かなところだろうと想像し、行ってみることにした。今年の夏は秋田・岩手県付近に 前線が停滞して連日のように雨降りである。今日も晴れる保証はないが今のところ雨が降っていないので 出かけてみた。
東京方面から垂天池沼へ行くときは秋田自動車道大曲ICで降りて、一般道の角館、田沢湖、 阿仁町方面への道105号線を行く。角館を過ぎると46号線と合わさるが、すぐ 阿仁町方面へ左折して橋を渡る。 後は道なりである。やがて西木村の役場前を過ぎると、西木温泉クリオンとかカタクリの里の標識が左に見えてくる。 それを過して道なりに行く。途中、田沢湖方面への分岐が2回ほど出てくるがこれも過してゆくと、宝仙湖への 道が右に分かれているところに至る。これも過すと、やがて「坂本」という部落の標識がでてくる。ここから 注意深く左側の標識を見ながら行くと、直ぐに「垂天池沼」の標識が出てくる。標識のところから砂利道が左に 伸びているので、左に入って行く。砂利道であるがそれほど悪路ではない。
雑木林の道をしばらく行くとやがて大覚野牧場で、牧歌的で伸びやかな風景の中を行く。時々牛がのんびりと 草を食んでいるのが見うけられる。どこまでも道なりに行くと牧場は過ぎ、また雑木林の中の道を行く。 道が悪路になってくると視界が開け、林道の終点の広場となる。そこに垂天池沼入口の案内板が立っている。
お盆休みのところもあると思うが一台も車はない。沼へ行くのは我々だけのようである。念のために熊除けの鈴 をつけて歩き出す。5分ほど林道らしきところを行くが、道標にしたがって杉林の薄ぐらい道に 入って行く。ガイドによると沼まで2.4km、標高差230mとある。緩やかな登りの杉林の道が 延々と続く。行程の2/5くらいのところで幅7,8mの沢にでる。桧木内又沢である。渡る橋も、飛び石もない。 ということは普段はチョロチョロなのかもしれない。今日は最近の雨で増水しているのかもしれない。 家内は靴を脱いで素足になって渉る。私はゴアの靴だったので水没した浅い飛び石をたどって渉った。
やがて階段の登りとなり、それを過ぎると、垂天池沼徒歩30分の道標の立つところに至る。 そこからも階段が続き、やがて小さなアップダウンを繰り返して40分くらい杉林の道を歩くと左手に沼が見えてきた。
鈴の音に驚いたのか、白鳥のような大きな白い鳥のつがいが湖面に波紋をたてながら対岸の方に飛び去って行く。 去った後は静寂そのものであった。湖面も鏡のように静まり、対岸の森の樹木やこちらのブナの枝が湖面に映し 出されている。またノリウツギであろうか白い花の出島が湖面に対象形に美しく映し出されている。 沼の岸辺の斜面には天にも届くようなブナの大木が林立している。深山の趣きのする雰囲気の良いところである。 ブナの樹を見上げていると、母なる大いなる自然にやさしく包みこまれてくる。そして心が静まり、いつまでも去りがたい思いとなる。 本当に名前の通り、天から降りてきたような神秘的な幽寂の沼であった。
岸辺のブナの森を半周ほど写真を写しながら散策して至福の時を過した。1時間半も過し昼も近くなったころ 沼を覆っている山にガスがかかってきてとうとう雨が落ちてきた。急遽戻ることにする。
帰りは散々だった。雷が頭上で鳴り出し豪雨となってきた。 沢は来る時より増水していた。靴も水没しビショ濡れとなった。窪んだ山道は樋となり周りの雨水を集め小川のように 水が流れてゆく。まるで川の中を歩いているようであった。しかし、沼はそんなことも忘れさすほどすばらしいところであった。

(コースタイム)
林道終点(P)8:45--沼徒歩30分道標9:35--垂天池沼10:15〜11:45-- 沼徒歩30分道標12:15--林道終点(P)12:55

(略図)
所在地 秋田県仙北郡西木村


(写真)
「フォト紀行」垂天池沼をご覧ください。

●追記
  • このコースだけではわざわざ東京から行くのはもったいないので、春ならば角館のしだれ桜、刺巻のミズバショウ、西木村のカタクリ などと、また、紅葉の秋ならば秋田駒ケ岳などと一緒に歩くと良いと思います。
  • 垂天池沼の概要:標高520m、広さ3.7ha、深さ25m
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